牧衷さんの進路講話

牧衷さんのY高校での進路講話の一部です。牧衷さんの話を聞くのが楽しみです。

覚悟を決めると,人間は自由になれる

自分が何かしたいということをやればいい。これは正直言うとなかなか難しいことです。みなさんは,西洋史・世界史をやられたらあるいは習われたかもしれない。フランスのルネサンスの有名な文豪,フランス・ルネサンスを代表する文豪,誰か名前を知っている人はございませんか?いないかな。フランソワ・ラブレー。この人が書いた『ガルガンチュア物語』という有名な小説がございます。その中に「テレームの僧院」という理想的な僧院の話が出てきます。その僧院の憲法それは何か,《Do what you will》というものです。で,「汝の欲するところを為せ」ですね。これがテレームの僧院の唯一の憲法なのですね。つまり,寝たいときに寝なさい,食べたいときに食べなさい。そういう世界。でも,これはね,実は,やってみるとなかなか大変なんでございますね。そして,フランソワ・ラブレーから約300年後,イギリスにオールダス・ハクスリーという評論家がございました。このオールダス・ハクスリーにやっぱり『Do what you will』という表題の評論集がございます。ところが,この評論集の中を読んでみますと,汝の欲するところを為せ,やりたいことをやりなさいなんてことではない。なかなか大変なんだ。この評論集を日本語に翻訳した方がいます。朱牟田夏雄さんといいます。その方がどういうふうにそれを日本語に訳したかといいますと,「汝の欲するところを為すとも」と訳した。これは名訳ですね。それを読んで私は朱牟田夏雄さんという方はえらい英語ができる人だと思った。ほんとにね,やったら大変。これは自己責任の世界ですからね,《 Do what you will 》。好きなことをやれ,そのかわり,その結果生ずる責任は全部かぶれ。覚悟がいります。
 で,覚悟がいるんだ,何をやってもいいんだけれども,その結果を人のせいにするなっていうんです。自分がやったんだから,自分がやった以上自分が選んだんだから,はたからヤイヤイ言われてしょうがなくてやったということを言うかもしれないけれども,もしそれをやらなかったらもっといやなことがあるからやったんだ。結局は自発的にやってるんです。だから,自分のやったことについて,その結果についてとやかく言うな。覚悟を決めろ。で,覚悟を決めることによって初めて人間は自由になります。覚悟がないと人間は自由になれない。
 今から考えておいてもいいことは,覚悟を決めることです。覚悟を決めれば,大学に1年や2年落っこちてもどうってことはない。また,覚悟を決めたら,猛然と勉強を始めて,今からの勉強で大学に入っちゃうことも不可能ではない。要するに,覚悟の問題なんです。これからの世の中,そういうふうにますます自己責任の世界になってまいりますから,生きていく上でますます覚悟が要るようになります。覚悟があるところ自由があります。自分がやったことはすべて自分の決断だと,そういうふうに考えてやりますとね,実に世の中愉快なものでして,必ず幸運がついてまいります。私は日頃,人間は幸運から逃れられないようになってると言っておりますけれども,幸運の方がくっついてきてしまいます。覚悟だけできりゃいいんです。とにかく,オレがやったことについては,その結果については,オレに責任があるんだ,他の誰にも責任がない,オレは誰のせいにもしない,オレのせいである。それでやっていこうと覚悟を決められれば,これは,試験なんてもんはへでもない。落っこちようがどうしようがへでもない。覚悟を決めるんだから。自分の選択の結果,受験勉強の時間が足りなくて落っこちたと,これは自分の選択の結果だからとやかく言うことはない。その結果をまっとうに受け入れさえすればいい。そうするとすごく楽になる。覚悟ということは今考えておいた方がいいかもしれません。