板倉聖宣講演録音選集推薦文

 板倉さんは、しばしば「研究するには研究する人と一緒に研究しなければだめだ」と言っていました。その一例として挙げたのは、世界の物理学者がほとんど一つの系列に入るということです。実際調べてみると、世界のほとんどの物理学者はデンマークの物理学者ボーアの弟子か、その孫弟子か、そのひ孫弟子か、・・・という系列に入っています。ボーアと一緒に研究したいと考えた多くの若い物理学者が世界中から、ボーアの研究所に集まってきました。彼らはボーアとの共同研究を始めて、みなとても驚きました。ボーアが毎日とんでもない考えをしゃべっていて「こんな人の弟子になって大丈夫だろうか」と思ったと言います。しかし、まもなく「研究とはこのようにやるのだ」と合点が行ったそうです。すぐれた科学者は研究するときにいろいろ豊かな発想をします。しかし、100考えたことの内99は間違いでうまく行くのはせいぜい1くらいのものなのです。論文や著書にはうまく行った確かなことしか書いてないので、論文を読んでもそこから豊かな発想を学ぶことはできません。研究者になるには、研究者に直接接してその発想を学ぶ必要があるのです。

 板倉さんは意図的に著書と講演を区別していました。著書では確かであることしか書かないけれど、講演では研究途上の話もどんどんしていました。確かなことを知るためには著書を読んでほしい。豊かな発想法を学ぶには講演を聞いてほしいと思っていたそうです。

 このたび、板倉聖宣講演録音選集が発行されることになりました。これは本当にありがたい企画です。今では板倉さんに弟子入りすることはできません。しかし、講演録音を繰り返し聞くことで、板倉さんの考え方、発想法を学ぶことができます。板倉さんの研究成果を引き継ぎ、発展させたいと思う人にはこの講演録音が大いに役立つと思います。多くの人が板倉講演を聞いて研究を発展させてくれることを願って、この録音選集を推薦します。