推薦図書

夏休み中の推薦図書を紹介してほしいと依頼され、書いた原稿です。しかし、分量が多すぎるため、図書館報にはその一部しか掲載されませんでした。推薦している本は古い本が多いと改めて感じました。
推薦図書
難易度 難 大学生程度 向学心旺盛な高校生もがんばれば読める。
    高 高校生程度
    中 中学生でも読める程度
    易 小学生でも読める程度
読む上での注意
 自分が読める本を読むべきである。一流の人が書いた本は小学生向きのものであっても高校生や大学生、大人が読んでも得るところが大きい。高校生向きであっても、著者が悪いとほとんど得るところがない。難易度は図書を選ぶ一つの目安ではあるが、それはいい本かどうかを表しているのではない。易しい本でも有益な本は多いのである。
『フランクリン』板倉聖宣著 仮説社 (中)
 18世紀最大の科学者フランクリンはアメリカ独立戦争の立役者で「雷と暴君をやっつけた。」と言われている。「暴君」というのはアメリカがイギリスの植民地だった頃は植民地支配者(総督)であり、アメリカ独立戦争のときは植民地の宗主国イギリスであった。彼は総督やイギリスとの闘争に見事に勝利した。「雷をやっつけた。」というのは電気の研究によって避雷針を発明したことを指している。フランクリンは静電気の実験を通じて、電気には2種類あるわけではなく、1種類の電気があるだけでそれが多すぎる状態が+電気、少なすぎる状態が-電気であるという「一流体説」を唱えた。現在、電気を+-の記号で表すのはフランクリンの一流体説に由来してている。その説は19世紀末になって正しいことが確認された。(ただしフランクリンは+の電荷が移動すると考えたが、実際に移動しているのは-の電荷を持つ電子であることが明らかになったのである。)
 フランクリンは科学者であるばかりでなく、実業家であり、政治家であり、外交官でもあった。アメリカ人に「アメリカ人が世界に誇れるアメリカ人を一人挙げてください。」と言えば、おそらくフランクリンの名前を挙げるだろう。電気の実験を楽しく進めたフランクリンの生涯と研究を生き生きと描き出した名著である。
 フランクリンと言えば『フランクリン自伝』(高)(岩波文庫693円、中央公論新社1995円)が有名である。この本にも電気学実験のことが書かれている。アメリカとは何かを知るためにもベストの書。
『わたしもファラデー』板倉聖宣著 仮説社  (中)
 19世紀最大の科学者ファラデーの発想と実験を4人の少年少女の対話を通じて描き出した名著。電磁誘導の発見、ファラデーのモーターの発明、反磁性体の発見、半導体の発見等々、そうそうたる発見が相次いだ大科学者の生涯と発想と実験を描き出した本である。
『ファラデーとマックスウェル』後藤憲一著 清水書院(高)
 ファラデーの考えた空間の電磁気的性質をマックスウェルが数式化した。そのドラマを高校生にもわかるように書いた好著。
量子力学的世界像』朝永振一郎著 みすず書房  (高~難)
 著者はノーベル物理学賞受賞者で、一般の人向けの本もたくさん書いている。その中の「光子の裁判」(こうしと読むのかみつこと読むのか不明、どちらともとれる)では、被告である光子が2つある窓のどちらから部屋に侵入したかを裁判で判定しようとしているという話で、被告は「両方の窓から侵入した」と言い張り、しかも自分が2つに分裂したわけではないと言い張っている。検事が厳しく追及してそんなことはありえないことを裁判官や聴衆に納得させる。これで進退窮まったかと思われたにもかかわらず弁護士は悠然と反対弁論を行い、検事の主張を一つ一つ反駁してついに光子は二つの窓を同時に通過し、しかも2つには分かれていないということを裁判官や満場の聴衆に納得させてしまう。実はこれは量子力学の勘所を裁判仕立てで説明しているのである。軽妙な語り口で量子力学の勘所を少しだけわかった気にさせてくれる名著である。
『物理学読本』朝永振一郎著 みすず書房 2625円  (高)
 数式を使わずに解説した物理学の本。ある物理の先生は高校生の時この本を愛読しておもしろくてたまらずついに物理学を専攻する道を選んだという。
『物理講義』湯川秀樹著 講談社  (やや難)
 日本人として最初にノーベル賞を受賞した物理学者湯川秀樹が大学院生にした講義をテープに録音しテープ起こしして出版したものである。大学院生を対象とはいうものの、物理好きの高校生なら読めるだろう。