ものごとを歴史的に見る

牧衷式発想法に学ぶ
牧衷さんの発想を自分でも使ってみようという人のために

ぼくは思考上のくせがありまして,その一つは歴史的にものごとを見るという くせです。(牧衷自伝)
この歴史的にものごとを見るという発想を適用して「公共事業費を削減して財政再建する」という方針を検討してみたいと思います。
 公共事業を歴史的にとらえると「公共事業はもともと今のように一部業者だけを潤すものとして出発したのではなく,戦後日本の経済復興の基本方針として全体への波及効果の大きい分野へ公共事業という形で税金を重点的につぎ込むことによって日本の経済を復興しようというケインズ政策アメリカのニューディール派の政策)に基づいて計画されたものだった」ということが出来ると思います。
 かつてダムを造るということはダムを建設する業者を潤すだけでなく,農業用水の確保,電力の確保,工業用水の確保,飲用水の確保など多くの波及効果がありました。道路やトンネルを造れば,道路を造る業者が潤うだけでなく,自動車も売れるようになり,流通がさかんになるなどの波及効果が期待でき,それによって経済活動がさかんになり,税収入も伸びるという構造があったのです。
かつて大きな波及効果が期待できたダム,道路などを造る公共事業が現在では経済への波及効果がほとんどなくなってしまったのです。ダムを造ればダムを造る業者が潤うだけです。そしてこの利権を手放すわけにはいかないでしょう。なればこそ,長良川河口堰は最初は「農業用水の確保」のために計画され,米が余り減反政策を実施せざるを得なくなると「工業用水の確保」のための計画ということになり,バブルがはじけると「防災」のための計画というように,中身は変わらず,計画の目的だけが変わるということが行われてきたのです。
 このように考えてみると,現在の公共事業の問題は公共事業そのものがいけないというところにあるのではなく,どこに公共事業の税金のつぎ込むべきかという判断のしかたが間違っているというところにあるのではないかと考えることができます。(これまでに公共事業費を削減することによって財政再建された例は一つもありません。)「公共事業費を削減して財政再建する」という方針はよく考えてみるとうまくいかない方針であるという予想が立ちます。(公共事業をやめるだけなら大不況の到来間違いないでしょう)
 ではどんな方針がいいのでしょうか。公共事業費をどこにつぎ込めば経済への波及効果を期待できるでしょうか。それについては『発想』という雑誌(1~4 牧衷・力石定一責任編集 季節社)で論じられているように,公共事業の支出先をダムではなく,林業・教育・福祉・介護・環境という方向へ代えていくべきだということになります。
牧衷さんの「歴史的に見る」という手法を使うと,以上のような情勢分析と方針の策定ができるように思います。