教頭会での発表3

(3)進路指導
 生徒の多くは「進路」という意識がない。進路を意識していない生徒は目標を持たせることが出来ず、指導が難しくなる。就職か進学かという判断の前に自分がどう生きるかという考えなしには進路という意識を持たせることは難しい。(将来のことを考えることが出来れば不登校などにならなかった)
 13年度の指導
 3、4年生を対象に進路講話を行った。4年の担任は「生徒はほとんど進路についての意識がないし、進路の話を担任がするのをいやがる。どこから手をつけたらいいかわからない」という。次のように助言「全員にいっぺんに進路の意識を持たせようとしない。まず一人を進路について真剣に考えるようにさせなさい。一人が真剣になればそれにつられて数人が進路意識を持つようになる」担任が一人を対象に進路指導を開始し、その生徒は真剣に資料を調べたり担任に相談するようになった。まもなく、数人が進路を真剣に考え始め担任の進路指導は軌道に乗った。卒業生7名中 就職3(内1名郵政公務員)アルバイト3求職中1という結果になった。(アルバイトの内訳 進学の資金準備のため1 在学中のアルバイト1 身分はアルバイトだが定職に近いアルバイト1)
14年度の指導
 4年生(男子3名、女子3名)に早くから進路意識を持たせることに成功した。しかし、専門学校進学希望者(男子)が欠席が多いことを理由に不合格となる。この生徒はその後就職試験に合格した。1名が就職試験で主に学力不足が原因で不合格となり、それまでのアルバイトを続けることを余儀なくされた。1名が進学のため、アルバイトしながら準備。
女子1名が就職試験に合格。1名家居。1名求職中である。欠席を少なくすることと、学力を付けることが急務であることが明らかになった。
 15年度の指導(途中経過)
 4年生9名。内1名は現在の職を続ける予定。進学志望2名。就職志望6名。担任の指導により、進路意識は高い。1名短大進学志望者は実質的に確定。担任は「真剣に取り組む生徒が1~2名いれば、他の生徒はつられて進路に意識が向くようになる」とどこかで聞いたようなことを言う。
(4)生徒指導
14年度は喫煙3件。どちらかというと被害者になりやすい生徒で、概してまじめである。授業のさぼりなどはきちんと指導してもらいたいが、ムキにならないように話している。
15年度、リストカット常習生徒が入学。入院。退院後今のところ順調。
(5)行事の重視
授業時数の確保のため行事を減らす学校が多い。しかし、多くの不登校経験者を抱える定時制では行事を通じての教育が大切である。行事で協力しあったり、多少の摩擦を乗り越え妥協したりする経験を通じて、非攻撃的で主張的な人間に成長していくことが出来ると考えられる。不登校経験者には特に必要なことである。
 不登校経験者は概して行事が嫌いである。行事の出席率は大変悪い。そこで、行事の大切さを折に触れて職員に話し、現状は現状として出席率を少しでも上げるような努力が必要であることを強調した。今年度は新入生歓迎スポーツ大会、文化祭などの行事があったが行事の出席率は普段の授業より数段よくなった。行事の中で他の生徒と協調してやっていくこと、自分の役割を果たすことを学ばせたい。
 秋には振興会長・正副同窓会長を招き、また各中学校にも案内状を出して校内生活体験発表会を生徒全員で行っている。全員が発表することになっているが、現実には半数強の生徒が発表できたにとどまった。しかし、今年は生徒全員が発表までに発表原稿を完成させることができた。この取り組みを通じて生徒は自分を見つめ直し、将来を展望するという上で大きな力になったと思われる。

(6)クラブ活動
 全員がどれかのクラブに所属することにしており、希望と職員構成によっては新たなクラブも結成可能にしてある。現在はバレーボール・バドミントン・卓球・陸上・野球・アウトドア・バスケットが活動しており、9:20~9:50をクラブの時間として確保している。そして今年度はバドミントンが北信越大会に出場した。

(7)トラブルの未然防止
○単位認定についての話を年度末になってからしない。欠席が続いたら家庭訪問しよく説明しておく。
○保護者に絶えず連絡を取り、連絡したことを記録に残しておく。
○苦情を言ってくる保護者がいたら、その保護者はその教員に苦情を言っているのではなく、学校という組織に言ってきているのだということを認識する。そういった場合の対処法は話をよく聞くことである。こういったトラブルの90%は話をよく聞くだけで解決できる。
○「まじめにやったら単位をやる」などという話をしない。これは法治主義ではない。人治主義である。必ずトラブルになる。
こうした話を日頃からしているためかどうかは判定できないが、赴任してからの3年間保護者とのトラブルは発生していない。
(8)雑談のすすめ
 本校生徒の3分の2は不登校経験者である。不登校生の多くは自分のことしか考えることができない。14年度の4年生が1年生だったとき、教室は静寂そのもので、生徒はみな下を向いて一言も話をしようとしなかったという。その生徒たちが今では職員室で雑談することができるようになった。職員が生徒たちと雑談することを通じて、生徒に人間関係のあり方を学ばせることになると考え、職員に生徒と雑談することをすすめている。雑談を通じて人との交流の経験を積ませ、ユーモア精神を身につけることができる。(ライフスタイルの変化)
 相談事があった場合、生徒の求めているのは聞いてもらいたいということであり、必ずしも助言を求めているわけではない。生徒の問題の解決をしてやるのではなく、よく聞いてやるように職員に話している。

5 取り組みの成果
(1)死なないという目標1は達成できたか
    全員死ななかった。達成できた。

(2)毎日学校に来るという目標は達成できたか。不登校生の出席率はあがったか
 資料1、2で見られるように不登校経験者は1名を除いて欠席の多いものもふくめて進級できた。1名は後期全休したが、前期については出席・成績とも基準を満たしており、前期の10単位分のみ認定し、原級留置とした。目標2は生徒の現状の中ではかなりよく達成できたといってよいだろう。結果的に13年度退学者0であるのは出席率の向上によるところが大きい。
 本校定時制では特に不登校生向きの教育をしているわけでもない。しかし、かなり不登校生徒の治療?に成果を挙げていると言える。ある生徒は、「定時制は少人数で気楽だから学校に来れる。定時制に来てよかった。」と言う。不登校経験者で定時制に来てから出席するようになった生徒の保護者はみなそろって定時制に対して大感謝である。
 なぜ定時制で登校できるようになるのだろうか。それはよくわからない。しかし、少人数の中で初めて自分を出せるようになった生徒も少なくないことを考えると、定時制教育の存在意義は小さくないと思われる。

(3)勉強したか 学力はついたか
 就職試験で採用枠1名のところに全日制の生徒と定時制の生徒(定時制の中の中位生。中学ではほとんどすべて不登校)が就職を希望した。同一問題で試験をして校内選考することになった。英数国の3科目と作文、面接を課した。「校内選考の日に休んで来ないのではないか」という心配の声もあったが、受験し必死で答案を書いていた。試験の結果は僅少差であった。全日制の生徒以上の点を取った教科もあった。結果は校内選考で不合格であったが、「学力では全日制の生徒に遠くおよばない」と思っていた職員は生徒の善戦に大いに意気が上がった。(特に全日制に「勝った」教科の先生はうれしそうだった)「定時制の先生が、定時制の生徒にあと学力をしっかりつけてやることが課題だと言っていましたよ」と全日制の職員から聞いた。さらに年末に男子1名が郵政公務員に合格した。このことから見ると目標はある程度は達成できた。
定時制の生徒は授業以外の学習時間をとることが難しい。しかし授業にきちんと出て努力を続ければ学力は次第についていくことがわかる。

6 今後の課題
教員の意識の改革
 ブレイン作り

(資料)校内生活体験発表会の作文より (下線は筆者)

変わった      4年男子
 卒業を半年に控えた今、思うと定時制に入学してこの四年間、自分で自分が変わったことに気付かされます。
 まず一つ目は、自分自身が昔より明るくなったこと、小学校三年のころから学校へ行けなくなり中学三年まで行くことができたのは、保健室ぐらいでした。同級生と会っても喋れず毎日なやんでいました。そんな自分だったので、定時へ入っても始めのころは友達とは喋れず、中学時代とまるで同じ環境でした。でも人はある切っ掛けで変われる、今はもう恥ずかしがらずに普通に喋れるようになりました。定時制には年に何回か行事があります。そんな行事が僕にとっては大きなきっかけだったように思います。いつからなのか分からないけれど、定時制へ入って僕は変わりました。
 2つ目は人より先にあいさつをすることです。人がする行動より先に行動する。昔伯父が言っていたことが出きるようになりました。例えば人がホウキで部屋を掃除していたとして、次にとる行動を予測してチリトリを渡したり仕事場でも上司の行動を見て、色々準備できるようになりました。以前の自分では出来なかったことです。これは社会に出れば当たり前のこと、僕はこのことを忘れずに一生取り組んでいきたいです。(中略)そんな色々な意味でこの四年間で僕は変わることができたと思っています。でもそれは、支えてくれる人達がいたからです。不登校の時に相談に乗ってくれた先生方や中間教室の友達、そして家族、みんながいてくれたので僕は変わることができました。
 そのおかげで僕は自分に自信が持てるようになりました。今、自分がやろうしている目標があります。自動車整備士という仕事をやりたいと思っています。国に認められているきちんとした仕事なので、やりがいがあります。しかし2、3年しっかりと勉強をしなくてはいけません、勉強は苦手ですが自分が変わる時なので、負けずに最後までやり通してみたいです。目指すは一級自動車整備士です。

変わったクラス    4年 女子
 私のクラスは変わったクラスです。私が入った頃、現4年生の人達は2年生でした。クラス内はとても静かで、私は「このクラスに馴染めるのだろうか…」と少し不安でした。(中略)静かなクラス内が明るくなっていったのは、私が編入してきてからの事です。私達のクラスは…。会話といえば、私と先程話した彼女の2人の会話か、先生方からの伝言を伝える程度のものでした。
 そんなクラスも、今では会話が無かったのが嘘のような、ちょっぴり明るいクラスへと変わってきました。(中略)でも、ふと冷静に考えてみると思うことがあります。「みんなは変わったんじゃない。『自分』を出せるようになったんだ―――。」
 クラスのみんなは元々明るい人だったのだ、と最近新たな発見をしました。その明るさを表に出すか出さないか。それだけの違いだったのです。昔々、静か過ぎて少し変わっていたクラスは、段々と明るく、会話のあるクラスに生まれ変わりつつあります。