学力を考える研究会4(完結)

学習方法の真髄――授業中心の勉強と教師を質問責め

 学習する上でもっとも必要なことは授業を聞くことであると言う。灘高の授業もU高校の授業もやっている内容は同じ。聞いている集中度が違う。千種高校の授業を見せてもらったときのことをはなして、聞くことがいかに大切かを力説する。「読む、書く、聞く、話す。このうち一番大切な能力は何か。聞く能力である。聞く能力を伸ばさないと、人間としてものびることが出来ない。実は聞くことが一番難しい。本は自分のペースで読める。授業は人のペースで進むのだから、それに合わせることは難しい。しかし、それが大切である。難関大学を現役で合格する人には共通点がある。それは授業を実によく聞くと言うことだ。授業するのが恐ろしいくらい集中して聞いている。3年生の秋から授業をするのは大変疲れる。生徒の集中力がすごく高くなっているので、授業する方も非常に緊張する。千種高校の授業を見て「こんな集中している生徒ばかりの中でよく授業が出来るね」と言ったら千種高校の先生が「実際いつになっても緊張する」と言っていた。」
 もう一つ千種高校の先生の話。「授業の最初に「授業の出来を決めるのは半分は教師、半分は生徒だ」という話をする」という。確かにそうだ。この話も生徒にする。
 「とにかく一生懸命聞くことが大切。わからなかったらすぐ質問しろ。後でなんて考えても後には後のすべきことがある。今すぐしろ。大体、学校というところは本来、生徒の一番の仕事は、徹底的に勉強してきて先生を質問責めにすることだ。先生は、死にものぐるいで勉強してきて、その質問に答えることが出来るようにすることが仕事だ。」

このような話をした。

生徒への勇気づけ――生徒に要求するなんてとんでもない。
    協力原理のクラスづくり

 次の課題は、勇気を持たせることである。エンカレッジメントである。生徒はいろいろな場面で勇気を失う。そこで必要なのが勇気づけである。生徒への話の基本は「そのままの自分でよいのだよ」ということであり、自分の不完全さを受け入れ、真剣に努力して不必要に悩まない生活態度を養うことが必要である。(ルソー→小原)成果をともに喜ぶことを基本とする。

 クラスに競争原理でなく、協力原理の元におくと、抜群のトップクラスは育たないが、平均的には競争原理のクラスよりはるかにのびるはずであると考えた。

進路指導
産業の推移 「どちらへ進むととくか」はわからない。だから自分のやりたいことをやればいい。

担任として心がけたこと

 一番心がけたのはの、自分が楽しくいきることと、楽しく生きている実例を生徒に見てもらうことと考えた。その方がはるかに教育的である。自分の楽しさは研究する楽しさ、勉強する楽しさである。苦しく勉強などこのところずっとしたことがない。また、人生はいきるのが楽、世の中わたっていくことは簡単である。俺のようないい加減な人間でも生きていけるんだから、大丈夫生きていけるよと言う話をした。

そのほかいろいろ指導したが、書ききれない。
  金メダルとノーベル賞、国の名前、国旗、同和教育、時代が変わると言うこと、

運動論の見地から行事に取り組む

 まず1割を確保せよ。まもなく3割を確保できる。たちまち全体のものになる。1割になる前の働きかけと、1割になって以後の働きかけは違う。生徒に運動というものが持つ力とその中での自分の成長の実感を味合わせる。生徒が人に働きかけて一緒に何かをやる楽しさとすばらしさを知ることに心を配った。そのとき大切なのはやらせることでなく、生徒の自発性である。自発性をつぶさず、方法を教えれば生徒はいくらでも伸びる。

結果

クラスの雰囲気
 クラスは教科担任から「反応があっておもしろいクラス」「質問がすごくよく出るクラス」と評判になった。ホームルームに行くと大抵、その前の授業の質問が終わらずにいた。各教科の先生の話、「授業が終わると少なくとも3人は質問に並ぶ」「U高校に転勤してきた1年目に教えたのは残念。もっと勉強してから教えたかった」「質問が多くて・・・・」
担任として心していたことは、質問することがクラスの主流になることである。質問している生徒の周りを数人が囲んで一緒に聞いている。すごい質問をする奴もいる。あんな簡単なことを聞いてもいいんだな。質問はわからないからするんだ。別に恥ずかしくない。そういう雰囲気が自然にできあがった。教えてやろうとしなくても、どんどん学ぶ生徒集団となり、意欲的になった生徒が他の生徒の意欲を引き出した。学習に意欲的に取り組むという運動が成立した。これは、2年の夏休み以後から、順次猛勉強する生徒がでて、互いに刺激し合って、気持ちの上では支え合いながら、よい意味での競争意識を持って勉強に取り組むようになった。

成績
 学年10番以内は1,2年ではいなかった。平均点は高かった。
担任は平均点は気にしたが、個々の生徒に勉強するように指導しなかった。面談は一番少なかったのではないか。家庭訪問しない。学級PTA、

成績の推移(口頭発表)

 1年
 2年
 3年
 センター入試

結論
◆教育の研究は大変遅れているので、少しの研究と、その単純な適用で、学力問題で問題にされているような学力はつけることが出来る。
◆いわゆる受験的な指導が受験学力をつけるのではなく、本来の学力をつけるとで受験学力もついてしまう。
◆学力をつけるには、建設的なことに努力するクラス集団学年集団を作ることが大切である。それには、運動論的な支点で、学習活動、行事への取り組みをしていく必要がある。
◆授業の改革が不可欠
◆担任は方法を教え、勇気づけを行う。

参考文献
『クラスはよみがえる』野田俊作・萩昌子共著 創元社
アドラー心理学トーキングセミナー 性格はいつでも変えられる』
    野田俊作著 発行アニマ2001 発売星雲社
『牧衷連続講座記録集Ⅰ』の「日本をよくする市民運動
『牧衷連続講座記録集Ⅱ』の「起承転結の運動論」

メモ

受験指導のノウハウほとんど蓄積なし
どう指導すれば受験学力がつくかほとんどわかっていない。
自分がたどってきた厳しい道を生徒にたどらせようとする教師
現場の抱える問題点
入試問題が解けない。
学習合宿
 どうしたら学力がつくかということについての研究は大変遅れているので、猛烈な勢いで受験シフトしているところも大したことはないはず。焦る必要はない。
これまでの教育理論では、「生徒がどうしたら意欲を持つか」ということについてほとんど解明されていない。この点について多少なりとも前進できれば成果は大きい。
「生徒に勉強させる」という表現にも現れているように、生徒が勉強の主人公ではない考え方が普通。