物理学習法

1995年に生徒に向けて書いた物理の学習法です。

以下資料
物理の学習法

◆物理の特徴──原理・原則的な考え方
物理ににはごくわずかの概念,法則,原理が出てくるだけです。そして,その原理・原則を使うことによっていろいろな自然の謎を解明し,未知の自然現象を予言したりすることができます。ですから,物理の学習では覚えなければならないことはごくわずかです。物理の学習で最も力を入れなければならないことは,概念,法則,原理をしっかり理解し,それをいろいろな問題に適用する訓練です。

◆基本概念の理解と言葉の正確な使い方
物理では基本概念を把握することが大変重要です。しかしその重要性はあまり意識されていないようです。たとえば《力》という概念は易しそうに思えてなかなか難しい概念です。「力とは何か」がわからなければ,力学を理解することはできません。にもかかわらず,力とは何かがわからないまま,力が出てくる運動方程式の学習をしている人が少なくないのです。そういう人は法則の学習の前に法則に出てくる概念の学習をしなければならないのです。
また,その「力」という言葉ですが,物理用語としての「力」という言葉は,日常用語の「力」という言葉とは違います。日常用語の「力」という言葉は非常に広い意味に使われています。それをそのまま物理の理論の中で使うと混乱してしまいます。そこで物理では「力」という言葉を日常用語の「力」と区別して,限定された意味でのみ使うように約束したのです。ですから物理に出てくる「力」という言葉を日常用語の「力」と混同してはなりません。「力」についてはほんの一例で,物理では常に言葉を定義どおりに厳密に使わなければなりません。この点を曖昧にして混乱してしまう人がいます。気をつけましょう。
基本法則を理解するには──イメージの重要性
物理の法則はいくつかの言葉または数式で表されています。ではそれを覚えれば法則を理解できたといえるでしょうか。それを「理解」と呼ぶとして,そういう理解の仕方をした人は,問題を解くことができるでしょうか。
残念ながら解けるようにはなりません。「問題を解こうとしてもどの公式を使っていいかわからない」という人がいますが,そういう人は学習法が間違っているのです。「数式で考える物理学者はいない」と言われています。では物理学者はどうやって考えるのでしょうか。それは,イメージを使って考えるのです。法則を覚えても,それが自然のどういう現象であるかについて,いきいきとしたイメージを描くことができなければ,具体的な問題を解こうという時には,一歩も考えを進めることができません。ですからそれは「理解」とは言えないのです。問題を解こうとするとき,持っているイメージが動き出します。イメージが動き出して初めてわれわれは,それがどのような法則に従っているのかを判断することができるようになるのです。
では,そのようなイメージを描けるようにするにはどういう学習をしたらよいでしょうか。それには,実験する前によく考えることです。実験の前に大いに空想の翼を広げて「どういう結果になるか」を予想するのです。このとき自然現象についてのイメージがつくられるのです。実験の結果(現象)もよく見てください。予想が当たったらそのとき描いたイメージは正しいと考えてよいでしょう。当たらなかったら,また,次の実験の予想を立てる時に,空想の翼を広げてください。このような学習を繰り返すと,いきいきとしてイメージを持って法則を理解することができるようになります。頭を使わず手を動かすだけの「実験」では,頭は進歩しません。
◆法則同士の相互の関連を理解する。
物理の法則はそれぞれがバラバラなのではなく,相互に深く関連しています。どの法則は別の基本法則の特殊な場合についてのものであり,どの法則からどの法則が導かれるかということを理解することが,個々の法則の理解にも劣らず大切なのです。
たとえば,《運動方程式》を積分すると《力積の法則》を導くことができます。そして,《力積の法則》と《作用反作用の法則》を組み合わせるところから《運動量保存の法則》を導くことができます。法則を他の法則から証明することをやっていると,法則相互の関連や個々の法則の意味,法則の適用条件について,とてもよく理解できるようになります。物理に強くなりたい人には,証明を重視することをお勧めします。

◆問題演習の仕方
基本例題をよく考えて解きましょう。どんな法則が使われているか,その適用条件に注意しましょう。考えても解けなかった問題は「なぜ解けなかったか。何に気がつけば解けたのか」をはっきりさせ,そのことを赤鉛筆などで書いておくとよいでしょう。
難問というのは,「まだ習ってない難しい法則を使って解く問題」ではありません。使う法則はまったく同じです。しかし,①いくつかの法則を組み合わせた問題 ②法則の適用条件について慎重な判断が必要な問題 ③解法の鍵を発見しない限り解けない問題 ④計算が複雑な問題はなかなかの難問になります。これにはかなりの学習の積み重ねが要求されます。しかし2年生の段階では難問に当たってみるより,基本例題をしっかりやることの方がずっと大切です。余力のある人は難問に取り組んでみるのもいいでしょう。

◆タイプ別物理受験勉強法アドバイス
▲チンプンカンプンの人
こういうタイプは勉強をしていません。「やっていないからわからない」のだから,「やればわかってくるだろう」と思って教科書を開いてみるが,何が書いてあるかわからない。そこで受験参考書を読んで解法のテクニックを知ろうとするが,できるようにならないのであせっている・・・・。こういう人は,まず教科書の問,練習問題,問題集の基本問題だけをすべてやってみることをお勧めします。易しいと思って略すからいけないのです。基本法則とその適用条件が言えるようになること,数値を代入して答が出せること,まず,そこから始めることです。

▲基本はわかるが応用ができない人
応用問題は基本がわかれば自動的に解けるわけではありません。やはり演習をしなければ応用問題を解けるようにはなりません。一斉考査と総合試験で出題された問題を徹底的に研究してみると,問題集の大部分の問題はその類題であり,それでほとんどの分野をカバーできることがわかるだろう。それによって登山でいうと物理学山全体の概略地図を手にしたことになるのです。地図によって見通しが立ったら,自分の足で一歩一歩登ってみてください。

▲物理を得意としている人
問題が解けると物理が得意だと感じますか。
実は「問題を解く」というのは,物理学の課題のごく一部にすぎません。問題を解くことより難しいのは「問題を発見すること」「いかなる問題に取り組むべきかという問題に対する解答を見いだすこと」です。そして,これからこれがますます大切になるでしょう。余力があったら「面白い問題」を作ろうとしてみてください。いい問題を考えたら友人と一緒に考え,解いてみてください。工夫して実験してみてください。そしてそれを先生にも教えてください。
研究にはよい仲間が必要です。待っていても仲間はできません。仲間を作るのはあなたです。将来,あなたが研究の第一線に立ったとき,「仲間とともに問題に取り組み,解明した」という経験は,大きな財産となってあなたの人生を実り豊かなものにしてくれるでしょう。
創造的に生きようとしたら,学んだ物理をもう一度自分で再構成し直した「私の物理学」ともいうべきものを持てるようになること,そして学ぶことそのものを楽しむことが絶対必要だと思います。創造的な生き方につながるような物理の学習をされんことを!