静力学の基本法則

静力学の基本法

 静力学はかつては高校で教えられていました。しかし、その後静力学は中学校で教えられることになり、高校の教科書からは静力学はなくなりました。ところが、中学生には静力学が難しすぎるということになり、中学の教科書から静力学が消えました。しかし、その内容が高校に改めて戻されることはなかったので静力学はどこでも教えられなくなってしまいました。静力学を知らない生徒にいきなり運動方程式を教えるということになったのです。
 当時、三井伸雄さんを中心とする愛知県の高校物理教員たちは、静力学をどう教えるかを研究、その成果として「静力学の基本法則」と「静力学学習上の留意点」をまとめました。当時20歳代だった私は、この資料を見て目を開かれました。その後の授業でこの内容で静力学を教えています。
 FM←Aとあるのはもとの資料ではM←AはFの右下に小さく書く添字なのですが、このブログ画面でどう表示したらいいかわからないので、普通の大きさの字になっています。判断して読んでください。
静力学すなわち静止している物体の力学のうち回転運動、トルクを考えなければならない剛体を除けば、4つの基本法則だけですべて解明できます。
 三井伸雄さんにインタビューに行ったときに、「「力はものとものとの相互作用である。」というのは正確でない。相互作用の片方のことを力と言うと言うべきだという指摘がある物理学者からあった。その通りだ。」という話を聞くことが出来ました。

以下資料

静力学の基本法

物体Mがある物体Aから受ける力をFM←Aと表わすことにする。
1.物体Mが受ける地球の引力の大きさは質量に比例する。
FM←A=gm(mは物体Mの質量、gは比例定数)

2.力は物と物との相互作用である。
  「何が」「何から」受ける力であるかに注目しよう。
物体Aと物体Bとがお互いに力を及ぼしあうとき、
FA←B=-FB←A(作用反作用の法則)

3.力の原理
 物体Mについての運動方程式(この段階では、物体Mが動き出すか静止したままでいるか)は、物体Mが他の物体から受ける力によって決まる。物体Mが他の物体に及ぼす力(=他の物体がMから受ける力)には無関係。
●物体Mがはじめ静止していた場合
a.物体が力を受けると物体は力の方向に動き出す。
b.物体が反対向きの2つの力を受けていて、一方の力の方が大きけれ     ば、物体は大きな力の方向に動き出す。
c.物体が反対向きで同じ大きさの2つの力を受けている場合、物体は静    止したままである。
FM←A+FM←B=0 ならば、Mは静止したまま
(力のつりあい)

4.力の大きさをはかるには、ばねばかりを用いる。
ばねが物体Mに及ぼす力の大きさは、ばねの伸びまたは、縮みxに比例する。
FM←ばね=kx(kはばね定数)
(注)一般的には弾性変形の大きさが力の大きさに比例することを用いて力の大きさをはかる。

★力が見えるようになるには
◆論理の力と経験・感覚をフルに働かせる。
◆一人ではだめ。討論によって自分の論理を鍛える必要がある。

静力学学習上の留意点

1.力は物と物との相互作用である。
 相手のない力はない。力に《片思い》なんてない。三角関係ならザラにある。特に、はじめのうちは、必ず「《何が》《何から》受ける力」ということ。我流はだめ!

2.力は接触していない限り働かない。・・【力の見つけ方その1】
接触している物体から受ける力だけを考えればよい。
例外・・・重力(電気力・磁気的力)見落としやすいので最初に考える。

3.《力の原理》を使って考えよう。・・・【力の見つけ方その2】  《力の原理》を使わないと力が絶対に見えない。

4.重力を基準にして力を考えよう。
人間の力を基準にすると、感覚的にはとっつきやすいが、泥沼にのめりこむ。はじめのうちは、必ず「物体が地球から受ける力」というように言おう。

5.重力と質量の区別をする。→《重力と質量の話》参照
力の単位と質量の単位の区別

6. 物体のばね的性質(ミクロ的イメージ)・・・【力の見つけ方その3】
われわれの目には感じ取れないごく小さい変形であるにせよ、
力を受けた物体は、ばねと同じように変形している。
→このイメージを働かせながら、物体に働く力を考えよう。