信大理学部CST授業2回目の報告

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2回目 2009年12月5日(土)
 今回の話は「仮説実験授業と科学史」です。
 まず1コマ目の授業で、力学の授業の重点を説明しました。運動学では速度概念、静力学では力の概念、動力学では慣性の法則が重点です。いずれも多くの授業では簡単に説明して終わりとしているところです。
 ガリレオ・ガリレイの『新科学対話』の中に出てくるv-tグラフ(上の図)について説明し、それが授業書《力と運動》に出てくること(下の図)を示しました。
 2コマ目から授業書《力と運動》に沿って授業しながら進めていきました。理学部の学生も高校生とほとんど同じような予想分布を示しました。これは当然のことと言えると思いますが、多くの高校の物理の先生にとっては意外な結果でしょう。(もしかしたら多くの物理の教員も高校生と同じ予想分布になるかもしれません。)
 これまでの力学教育が「生徒はこう考えるはずだ」ということを前提として授業を展開しています。仮説実験授業の授業書を見て、授業書の中にある問題は実験するまでもなく生徒には自明のことなのに、なぜわざわざ時間をかけて予想を立てたり実験したりするのかという疑問を持つ人がいます。しかし、その「はずだ」というのは予想に過ぎず、実際に調べてみると、生徒は教師が「生徒はこう考えるはずだ」と思っているようには考えないのです。そのことがわからないと仮説実験授業は無駄に時間を費やしているという批判をすることにもなりかねません。学生さんたちにそこのところをよくわかってもらうように説明しようと思っていました。しかし、今回の講義で理学部の学生の予想分布が高校生とほとんど変わらないことがはっきりしてしまいました。学生さんから「授業書の問題は高校生にはやさしすぎるのではないか」という意見が出る余地はありませんでした。自分も予想がはずれたのですから。しかも、予想がはずれたのがはずれるのが無理もない難しい問題や引っかけ問題ではなく、誰でも出来ていいと思える問題だったのですから。
 とにかく、仮説実験授業の授業書が非常によくできていることや授業書の問題が授業で取り上げるに足る重要な問題であるということが全員によくわかってもらえたように思いました。
 化学科の先生は全部の講義に出席して活発に意見を言ってくれました。
 《力と運動》第1部の[問題3]の車を一定の力で引っ張れば速さはどうなるかという問題で「一定の力で引っ張れば途中まで速くなっていくが途中からは一定の速さになる」という予想を立てていた一人は、討論している中で自分で自分に反論をして「力を加えなければ慣性の法則で一定の速さだから、そこに力を加えればどんどん速くなる」と言って、「引っ張っている間じゅう速くなる」に予想を変更しました。
 実験は廊下に出て、KTさんに借りた装置を使って実験です。結果はみごとに「引っ張っている間じゅうどんどん速くなる」でした。学生さんたちはこの結果に大変喜びました。こうした実験はやったことがないのでしょう。ある高校の物理の先生は「物理の実験はしないことにしている。結果が当たり前すぎて実験する意味がない」と言っていました。しかし、理学部の学生にとって<この結果は当たり前ではないのです。こうしたことは実験して初めて納得できることなのです。こうしたことを問題として提示することなく、また実験することなく説明をしていけば生徒はわからなくなるのも当然であるという話をしました。そして、こういう問題がよい問題であるという話をしました。
 《力と運動》は大変長く、第3部の途中で時間切れ、残りは次回にまわすことにしました。最後の方で授業書の問題ではないが、重い台車と軽い台車を同じ力で引っ張るとどちらが先にゴールに着くかという予想問題をやり、実験をしました。この結果に全員大喜びでした。

《力と運動》の授業評価
楽しかったですか。
わかりましたか。
ためになりましたか。
の3項目に全員5か4の評価をしてくれました。

《力と運動》の授業の感想

◆実験で納得
 頭だけで考えても、いまいちわからなかったですが、実際に実験してみるとイメージが湧きやすかったのでわかりやすかったです。予想ははずれても実験で納得できました。

◆作業もやってみたかった
 実際に見るのは何度見てもいいと思います。前回のようにできれば自分の手を動かす作業もやってみたかったです。

◆明快な説明
 わかりそうでわからない力学について、明快な説明が提示されていて、自分自身の勉強にもなりました。仮説実験授業の実験装置や結果の解釈の仕方、説明の工夫をいろいろと知ることができてためになりました。
◆楽しかった
 実験が多くてとても楽しかったです。実際に体験することで理解しやすかったです。また、高校の復習にもなってよかったです。ただ、実際の授業でこれを行なうとした場合、準備が大変なのではないでしょうか。

科学史が取り入れられている
 科学史が取り入れられている点が大変よかった。考え方を知る、考えることを知る体験になった。ありがとうございました。

◆楽しむことが出来た
 この授業書はやったことがなくて・・・、楽しむことが出来ました。自分が仮説実験授業をやる時は、表面的なとらえなんだと思いました。授業書の”骨”の部分を感じることができ、科学史についてもこれまでより興味が沸きました。力×時間が大切というか、この切り口が応用が広いということをもう少しじっくり学びたいです。          

◆歴史を押さえることが大切
 科学は全てが歴史(社会、人文、自然科学)ということを再確認した。やはり、歴史を押さえ直すことが大切である。