地球の水循環が起こる理由

1999年8月に書いた小論です。その後仮説実験授業研究会の大会で発表し、その分科会報告をこのブログにも掲載してあります。水の分子式をH2Oとしていますが、2の字を小さくすることが出来ませんでした。また累乗の小さい数字を肩に乗せる記載もできませんでした。判断しながら読んでください。

以下小論
湿った空気と乾燥した空気はどちらが重いか──地球の水循環が起こる理由
[問題1] 
 湿った空気と乾燥した空気はどちらが重いか。どちらも同じ温度とする。
予想
 ア 湿った空気の方が重い。
 イ 乾いた空気の方が重い。
 直観的判断ではほとんどの人が湿った空気の方が重いと答える。本当はどうだろうか。

概算
 アボガドロの法則によれば、どんな気体でも同温同圧同体積中には同数の分子が存在する。湿った空気も乾燥した空気もこの「どんな気体も」の中にはいる。乾燥した空気は酸素分子1、窒素分子4の混合気体である。湿った空気はなにがしかの水の分子が含まれている。すなわち、酸素分子、窒素分子、水分子の混合気体である。
  酸素の分子量 32
  窒素の分子量 28
  水の分子量  18
 水の分子は酸素や窒素の分子より軽い。軽い分子が混じっていてしかも同数の分子があるのなら、軽い分子(水分子)の混じっている混合気体の方が軽いはずである。すなわち、湿った空気の方が軽い。この判断は直観的判断に反する。そこで、詳しく計算してみよう。

計算
 乾燥した空気は平均分子量28.8だから、0℃(273K)、1気圧で22.4㍑の空気の質量は、28.8gである。
 この空気を27℃(300K)にすると、同圧力の場合、PV/T=一定より、体積は300/273倍になる。この乾燥した27℃、1気圧の空気22.4㍑の質量は28.8×273/300=26.208gである。
 27℃ 22.4㍑、1気圧、湿度100%の空気の質量はいくらだろうか。
 水の27℃のときの蒸気圧は3566.3Paである。(理科年表より)
 この湿った空気の中の分子の個数は、その分圧に比例する。ゆえに、1気圧=1.01×10の5乗 Paであることを考慮して、このとき湿度100%の空気にはすべての分子の内、
3566.3Pa/1.01×10の5乗 Pa の分を水の分子が占めていることになる。この混合気体の分子の個数の存在比は
 H2Oの存在比 3566.3 Pa/1.01×10の5乗 Pa=0.0353
 O2 の存在比 0.2×(1-3566.3Pa/1.01×10の5乗 Pa)=0.19294
 N2 の存在比 0.8×(1-3566.3Pa/1.01×10の5乗 Pa)=0.77176
そこで、その混合気体がその存在比のままで、仮に0℃になったとしたときの22.4㍑の質量を計算する。(実際は0℃になると、水蒸気が凝結して、この存在比は変わってしまう)これは、この混合気体の平均分子量ということになる。
  18×0.0353+32×0.19294+28×0.77176 =26.468
すなわち、この混合気体22.4㍑の質量は26.468gである。
この混合気体を温度27℃にすると、その22.4㍑の質量は
  26.468g×273/300=24.0866gである。

計算結果
27℃の乾燥した空気22.4㍑の質量    26.208g
27℃で湿度100%の空気22.4㍑の質量 24.0866g
よって、乾燥した空気の方が重い。(密度が大きい)

結論
1.湿った空気は乾燥した空気より軽いので、上昇気流となる。
 →上昇すると断熱膨張によって温度が下がり、雲が発生し雨が降る。
2.乾いた空気は周囲より重いので下降気流となる。
 →下降すると断熱圧縮によって温度が上がる。露点からますます遠ざかり雲が発生しない。
[応用問題1]夕立があると、その後数日夕立が続くのはなぜか。
[答] 日照りの時は、空気が乾燥しているので、下降気流になっている。そのためますます空気が乾燥して雨は降らない。一度夕立があると、空気の湿度は高くなり、軽いため上昇気流となる。そのため雲を発生し、雨が降る。
[応用問題2]砂漠で雨が降らないのはなぜか。
[答] 砂漠の空気は乾燥しているため、周囲の湿った空気より重い。そのため下降気流となり温度が上昇し空気はさらに露点から遠ざかる。よって雨は降らない。
雨の降る地域では水循環が起きている。降らない地域では水循環が起きない。生物はエントロピー廃棄機構を備えた地域(水循環の起きる地域)だけで生存できる。

付記
 この計算は、勝木渥著『環境の理論』に載っていることを詳しく計算しただけである。この結論を知っている人は何を今更と思うかもしれない。しかし、この結論を知って驚く人の方がはるかに多いことを考えれば、この問題は科学教育的に重要な問題である。化学の授業で空気の平均分子量を求める計算が出てくるが、この計算は生徒にとっておもしろみのあるものとは言えない。しかし、上記のように問題を考え、さらに水循環にも結びつく問題としてとらえれば、興味深い問題として扱うことが出来る。