なぜ原子論を教えるか

IHさんから「なぜ原子論を教えるか」という質問を受けました。それに答えるために書いた手紙を掲載します。固有名詞をイニシャルに変えました。

IH様
 サークルではお世話になりました。
 「なぜ原子論を教えるか」についていろいろ考えるきっかけを与えていただきありがとうございました。
 以前、JS教研でKHさんが「仮説実験授業では原子論を重視している」と発表していましたが、仮説実験授業関係者でない人たちには説得力がないと感じました。やはり、仲間内でない研究会では仲間内にしか通用しない説明ではまずいと思いました。
 今回の「教育課程研究会」は仲間でない人たちのところで発表する機会なので、説得力ある議論が必要でしょう。論敵を説得できなくてもまわりで聞いている人たちがどちらを支持するかという観点で議論を進めるのがよいように思います。
 まず、なぜ原子論を教えるかですが、自分の書斎で文献を探してみましたが、『仮説実験授業入門』明治図書が見つからず、研究する者として大変まずい状態です。『未来の科学教育』国土社にも、原子論がその後の自然科学的認識にどのように結びついているか示していたと記憶していますが、この『未来の科学教育』も見つからない。『物理学入門』国土社板倉聖宣・江沢洋共著は見つかりました。この本には力学を原子論的に教えるべきという主張が展開されています。板倉聖宣さんが書いた部分は全部その主張そのものですが、ここでは科学教育全体の基礎としての議論の展開でなく、力学に限定した議論です。
[同封したコピー]
○『ファインマン物理学講義』の原子論を論じた部分
板倉聖宣講演『理科教育の変遷史』1977年9月16日 長野県小県郡青木村 保養センター「あおき」 長野県理科教育研究集会での講演。(教文会議理科教育研究会主催)上田仮説サークル編集『教育改革の展望』に収録。この講演で板倉聖宣さんは原子論を教える理由を述べている。
 この講演は板倉聖宣さんも気に入っていて出版するために手を入れ始めたそうですが、まだ出版されていません。上田仮説出版で出版したいと思っています。
○『科学革命』の板倉聖宣論文
 これは、落下運動の理解には原子論が不可欠という論文でたぶん『科学の形成と論理』に掲載の論文と同じもの

 『仮説実験授業入門』の板倉聖宣さんが書いた部分と、『未来の科学教育』については検討されることをお勧めします。もし見つかりましたらコピーをお送りしたいと思います。
 全国理科教育研究大会でのYKさんの発表は研究の裏付けがしっかり示されていたので聞いている人たちはグーの音も出なかったという感じでした。
 なお、2007年8月7日(火)14:40~15:40全国理科教育研究大会松本大会の文部科学省講話で文部科学省初等中等教育局 教育課程課 教科調査官 清原洋一氏の講話「理科教育の現状及び改善の方向性」でこれからの理科教育は「エネルギー・粒子・生命・地球」がキーワードで、「今後も学び続けられる意識を持たせ、将来一市民として考えられるようになるような子を育てることが大切」と言っていました。この「権威」をかさにものを言う必要はありませんが、不勉強な指導主事をやっつけるにはいい材料でしょう。義務教育の指導要領改訂は今年度3月に予定されているそうです。また中教審では「習得・体験・活用」の重視を謳っているそうなので、原子論的イメージを与えることでどのように活用が広がるか議論を立てることが可能でしょう。
議論を整理すると
 原子論をいつから導入するのがいいかは実験的に決めるべきことだ。
 小学校で原子論を教えるのは無理だ、あるいは教育的によくないという意見は、原子論を教えられて理科嫌いになっているという現状をもとにしていると考えられます。この「原子論を教えられて理科嫌いになる」という現状が変えられないという前提にした議論は、原子論を学んで理科好きになるという事実の前ではナンセンスになるでしょう。
 原子論を学んだ場合と学ばない場合何が違うのかという根源的な問題がありますが、このことについて考えてみて適切な説明法が思いついたらお知らせしたいと思います。
 取り急ぎ、思いついたことを書いてみました。参考にしていただければ幸いです。

2007年8月26日
                               WN