科学史研究49号~52号

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科学史研究』第49号には板倉聖宣さんの「電磁気学の骨組み(Ⅱ)──古典力学電磁気学の成立過程の比較研究──」が掲載されています。
 この論文で板倉聖宣さんは「マックスウェルの電磁気学ニュートン力学が完成しているというのと同じ意味で完成している、ということはできない。マックスウェルの電磁気学はどのような座標系において成立するのかという問題に答えられていないからである。」「電磁気学が一応それ自身として完結するためにはニュートン力学における慣性系の発見──慣性の原理、古典的相対論に対応するような法則、原理が必要とされたのである。この課題をはたしたのは(特殊)相対性理論にほかならない。このような意味で我々は(特殊)相対性理論電磁気学史の必然的な一部としてとりあげなければならないのである。」
この論文は板倉聖宣さんの学位論文で、この部分の妥当性に異議を唱える審査者もいたそうですが、それより「格の上」の教授が「特殊相対性理論電磁気学の一部だ。」と言ったので博士号授与するにふさわしいという判断がされたのであるとする推測もあります。権威ある人によりその正しさが保証されるとともに、異議が出て来たことはこの論文の結論はだれにとっても自明であることではないことが明らかになった、すなわち独創的論文であることが保証されたということなのです。
科学史研究』50号には板倉聖宣さんの論文は掲載されていません。
科学史研究』51号に板倉聖宣さんの「古典力学電磁気学の成立過程の比較研究」が掲載されています。この論文で「この2つの理論(古典力学電磁気学のこと)の形成過程の論理的な構造が基本的に同一と見られうることは注目すべきことと云わねばならない。」「それはとりあえず科学教育と科学の社会史の研究において実際的な影響をもたらしうるであろう。」としています。この論文に対して、『科学史研究』第52号で広重徹氏が「古典電磁気学相対性理論──板倉氏の科学方法論への批判をかねて──』という批判論文を書いています。「この同一性が電磁気学の教え方の再検討をもうながすと板倉氏はいうが、それなら、構造の同一性にもとづく新しい電磁気学の教え方のプランを示してほしい。」としています。《電流と磁石》の授業書はその回答になっていると思います。板倉・広重論争は決着がなかなかつかないうちに広重氏が若くして亡くなってしまったので、直接対決はなくなりました。広重支持派は今も科学史学会では多数派なのではないでしょうか。当時の若い学者はほとんどが政治運動に深い関心を持っていて、当時の政治運動の指針をどう考えるかということが論争の底流にあったように感じます。
 この『科学史研究』第52号には板倉聖宣、岩城正夫、上川友好の共著で「理科教育におけるアリストテレス・スコラ的力学観と原子論的・ガリレイ的力学観」が掲載されています。これは季節社の『科学と方法』に所収されている論文です。