現代民主主義論

2004年6月26日に軽井沢高原ホテルで行われた牧衷さんの講演「現代民主主義論」の一部抜粋です。
「現代民主主義と近代民主主義は違う」というのが牧衷さんの主張です。
ここに掲載するのはその一部

以下講演
最後のゲマインシャフト 国民国家と家族の危機

 婦人参政権はなぜ実現が難しいか。フランスはあれだけの大革命の歴史を持っていながら、フランスで男女平等の選挙権が認められたのは1945年です。日本と変わらないんです。なんでそうなのか。結局、実現が難しいんです。婦人参政権運動は婦人に参政権を与えるって運動だけじゃないんです。男女同権運動なんです。男女同権というのは共同体の最小単位の家族を、これはゲマインシャフト原理が働くんです。家長の権威があって、支配する者とくっついていくものということがはっきりしている。そういう統合が行われている社会。これはゲマインシャフト的な構成を持っている。これが男女平等になると、これが横社会的になる。これは最後に残ったゲマインシャフトゲゼルシャフト化しちゃうことになるから、ものすごい抵抗が起こる。
 もう一つ最後に残るゲマインシャフトがあります。何か。国民国家、民族国家です。社会がゲゼルシャフト化してくるとその原理が危うくなって来るんですね。今、保守的な人たちが二つのことが大事だっていうんですね。国を愛する心と家庭が大事だ。最後に残ったゲマインシャフトなんです。世の中のゲゼルシャフト化はそれだけ進んじゃった。そういう上に現代の民主主義は成り立っているんですね。

スローガン競争に陥るブーランジュ主義

 だけど企業の方は日本の企業でグローバル化してない企業なんかありはしません。中小企業にいたるまで海外に工場を持ったりしているんですね。みんながバラバラになっちゃう。
 そのバラバラなものをまとめるには抽象的な旗印の方がまとめやすいということが出て来ます。具体的な政策を論じるよりも、スローガン競争になる。これはフランスの歴史で見ますと、第三共和政が出来まして、そのすぐ直後に、第三共和制の危機と言われている時期があります。
 それはその時陸軍のブーランジュ司令官がプロシアとのやりとりでプロシアをへこましたんです。ビスマルクをやっつけた男ということですごい人気が出たんです。その時ブーランジュが何をやったかというと今の選挙と実によく似ているんです。具体的な政策を一切掲げないでスローガンだけ掲げる。スローガンが入ったポスターなんかを大量にパリの町に貼りめぐらすということをやる。それでその時に選挙をやったらブーランジュが圧倒的多数で大統領に当選することはほとんど確実でした。それでクーデターを起こして軍事政権を作るという計画だったんですが、最後の最後でブーランジュがビビっちゃってヤダと言い出して、それはそれでお終いになっちゃったんですけど。

ドゴール大統領のブーランジュ主義

 その後だれが引き継いだかというとドゴールが引き継ぎました。彼も「強いフランス」というのがスローガンです。何しろ強いフランスって言うんだ。その時フランスは第二次世界大戦で散々な目にあって、アルジェリアには反乱されて、収拾つかない。アメリカには頭が上がらない。かつての栄光のフランスはどこに行ったんだという話になる。そこへ「強いフランス」っていうスローガンで、ドゴールが出て来る。ドーッとドゴールに票が集まるんです。
 現代民主主義というのはそのように一極集中する傾向を持っている。非常に危ないんです。民主主義は独裁を生むというそういう側面を非常に強く持っちゃった社会なんです。

小泉首相のブーランジュ主義と民営化

 それを小泉さんはよく知っています。彼は具体的なこと何も言わないでしょ。「改革」「改革」って言うだけですよ。改革しなければならないことはみんなわかっているわけだ。今のままじゃやり切れんとみんな思っている。そこに「改革」って言えば中身を問わないでそこに乗っかっちゃう。
 郵便局の民営化とか。あんなもの民営化したらろくなことないですよ。道路公団の民営化。本当はもっと国が持たなければいけないものを、年金なんてもし民営化まで今言っているでしょ。民営化したらぶっつぶれる危険が必ずある。ぶっつぶれたらどうするんですか。年金なんて危なくてしょうがない。年金なんて基本的に税金でやらなければいけないものなんです。その上により豊かな暮らしをするために個人が銀行や保険会社に積み立てて年金型の貯金をするのはこれは個人の勝手でして、一番基本的なところは税金が見なければいけないんです。そうでなければそもそも社会保障の理念に反する。
 今国民保険のもらえる水準は生活保護費より低いんです。そんなアホな話があるか。現在の生活保護費と同じ水準までは税金で処理するんだ。そこから上は個人の積立による、心がけ次第で良かったり悪かったりするようにするのがまっとうなやり方です。
 ただしこのまっとうなやり方をするためには、膨大なお金がかかります。それは税金で処理するよりしょうがないんです。下にそれだけ厚くなることがわかっていれば、消費税を上げることは、下の人が苦しくなるとは必ずしも言えないですね。現在5万しかもらっていない人が15万円もらえるんだもの。そうなったら消費税がたとえ10%になったところでそれは安いものなんです。現在国民年金強制加入。加入しなかったらいけない。これは税金ですよ。名目は保険となっていて、実質税金を保険という名目で取り上げてというのはそもそもひどい欺瞞です。
 そういうようなことを考えますと、国鉄というものがある。確かに赤字です。しかし資産がある。これは国が営々と築き上げてきた資産です。なんで施設そのものを国有化したまま民営の会社に賃貸しして料金取らなかったのか。その料金設定すれば赤字財政じゃないですよ。膨大な利益を生んでくれる資産ですよ。民営化というのはそうしなければいけない。ところがそのもとになる資産を変なふうに民営化の会社にくっつけちゃうからおかしな話になるんです。道路公団の民営化なんておかしなこと言っちゃあいけない。あれは交通費ちゃんと取ればいいんだ。あるいは、自動車道路をやたらこんなにつくる必要がない。新幹線を輸送の根幹にして、新幹線で物資輸送するということは十分考えられることで、新幹線で輸送すれば今トラックで輸送しているより何層倍も速く貨物が流通するようになります。そうすると各地方地方はその新幹線のターミナルに集中する道路や鉄道をつくればいい。それは地方がつくるんですから、その財源は国家が持つ必要はない。地方に分譲してしまえ。地方分権も一緒に出来るんです。
 大衆迎合主義で行きますと、政策の論理的首尾一貫性などなくなっちゃうんです。つまり消費税は上げない。年金はたくさん出す。出来ない相談なのよ。そういうことを平気で言うんです。ですから一種のデマゴーグです。大衆迎合主義というのは。そういうことで票を集めて、実際は出来っこないから実現出来ない。それでも平気な顔しているんだ。マニフェストなんて公約みたいなものでしょ。公約なんて大したことじゃないですってこういう話になるんです。
 民主主義という制度はいい制度かどうかだんだんわからなくなってきています。やっぱり時代が政治のシステムを決めるんだ。時代の文化が政治のシステムを決めるんだ。だから民主主義なんぞが未来永劫の真理だなどとは考えない方がいい。