グローバリゼーションの意味するもの

牧衷さんの講演の一部を紹介します。
ゲマインシャフト国民国家と家族の存在が今や危機に瀕している。危機に瀕しているから、危機意識を持った人たちが「国民国家と家族だ大切だ。」と声高に言って保存しようとする。黙っていたら、国民国家と家族は壊れちゃう。国民国家が壊れかかっていることは今のグローバリゼーションひとつを見てもわかりますね。国境がなくなっちゃうんです。資本の前には国境はないんです。商品の前にも国境はないんです。いい商品だったら世界中に売れちゃうんです。国境なんか関係ない。
 でも市場の方には国境がありますね。ある地域を囲い込んで国境を作って、関税だ何だといって、そこに障壁を作るわけですね。それがだんだんだんだん崩れちゃう。崩れてしまうと、ちょうど藩というものが崩れてじゃまになって廃藩置県が行われたように、国民国家、民族国家がじゃまになってくる世の中が現出した。
 これが近代民主主義と現代民主主義の大きな違いです。つまりEUができるのが現代民主主義です。フランスの近代民主主義はフランス国家、フランス国民ということをものすごく強調しなければ成立しなかった。だから、フランス革命の過程を見ると、国民公会、国民衛兵、国民公安委員会、みんな国民とか国家というのがついてくる。それを強調しないと、新生フランスに対する求心力が生まれてこない。
 そこが崩れかけれているんだから、ずっと旧来の枠組み、規範の中で生きてきて、慣れ親しんできた人たちは茫然自失、何をしていいかわからないですね。国境がなくなっちゃった世の中ってどうなっちゃうのか。見当もつかない。「ヤダー」って感覚が先に出てくる。たとえば東アジアがEUみたいになったとする。中国の人も朝鮮の人もパスポートなんかいらない。自由に行き来できる。日本人も自由に行き来できるようになるんだよって、話になると「ヤダーッ」っていう人の方がまだ大部分ですね。そんなの入ってこられちゃいやだ。まだまだ日本は民族国家の壁がヨーロッパほど低くなっていない。