矛盾と転釈

[試論] 瞬間の速さをどう教えたらいいか

 速さは「距離÷時間」で定義される。しかし、これは平均の速さであって、瞬間の速さでない。瞬間の速さはどう求められるのだろうか。
矛盾を突き詰めるコース  
 時間が経過しなければ、移動できない。
距離÷時間の時間が0では、計算できない。(0で割ることはできない。)
 瞬間の速さを求めるには時間を0にしなければならないのに、時間を0にできない。これは矛盾である。
 これを解決したのがΔtである。
ある短い時間をとってΔtとし、このΔtを限りなく0に近づけるのである。
 「Δtは0であり、かつ0でない」のである。
ニュートンは「Δtは0でないので、Δtで割ることができる。」
「しかし、Δtは0に限りなく近いので0と考えてよい。」と主張した。
当時この考えは猛烈な批判を浴びた。矛盾しているというのである。
 この矛盾を追いつめていって確立したのが、極限の理論や微分という考え方である。
 矛盾を突き詰めることによって瞬間の速さを表すことができるようになったのである。
転釈のコース
 板倉さんの言う「対象の有する特徴的な運動形態の(基本的運動法則への)転釈のコース」というのは、この場合何だろうか。
 瞬間の速さの特徴的な運動形態というのは、速度計の示している速さである。速度計が示しているのは瞬間の速度である。ここでは矛盾論は必要ない。
 慣性の法則を知らない段階で地動説に到達したように、
極限の理論、微分の考えを知らない段階でも速度計の目盛りを読み取ることはできる。
 地動説から慣性の法則を転釈によって導いたように、
速度計から転釈によって瞬間速度が理解できるようになる。
 授業書《速さと距離と時間》では、速度計の数値から瞬間の速さを導いている。これを難しくてわからないという生徒はいない。
速度計の数値をもとにして
速さ×時間=距離
が実際に成り立っているかを確認している。
これは実験である。この数式は、実験的に検証されるべき法則なのである。
 授業書では微分や極限という難しい議論をせずに、瞬間の速さのイメージをつくることに成功している。
 板倉さんは、自分の発見した基本法則が成立するコースに従って授業書を作成していたのです。