推計学への道

増山元三郎校訂『推計学への道』という古本を入手しました。この本は増山元三郎が1948年に東大経済学部で行った講義を学生が学内用プリント(孔版 すなわちガリ本)68ページを作り、それが元になって作られた本であるという。すなわち、われわれが板倉先生の講演などをテープ起こしして、ガリ本にしていることと同じことを1948年の東大の学生はやっていたのである。板倉先生たちの東大自然弁証法研究会では自分たちの研究成果を『科学と方法』というガリ本にして売っていた。また、三浦つとむという哲学者は、東大の法学部の講義のノートを数名の学生から謝礼を払って借りて、それをまとめたガリ本を東大法学部の学生に売っていたという。これは大変よく売れて三浦つとむはこれで生活していたのである。同じ頃、素粒子論研究グループでも『素粒子論研究』というガリ本を出していたそうである。物理学の論文は英文で書くのが原則だけれども、このガリ本では日本語でいろいろな仮説や思いつきを出す雑誌だったという。
増山元三郎の『推計学への道』はそうしたガリ本のひとつだったのだろう。東京大学協組出版部の出版となっている。増山元三郎は講義を通じて、文科系学生である経済学部の学生の推計学への深い理解力に驚いたということを書いている。また、ある経済学部の助手は「これならわかる」と言ったと言う。増山元三郎の数学の本は難しいことで定評がある。しかし、この本はわかりやすく書かれている。学生が自分が理解したことを書いているからであろう。学生時代の板倉先生は増山元三郎の推計学に興味を持って、増山教授に講演を依頼したことがあったそうである。統計学は既にある数字をまとめたものだが、推計学はサンプルをもとに推計し、これから起こることを推計するので、仮説実験的である。推計学は品質管理や実験計画法に使われている。大学生の頃は確率統計に関心を持てずにいたが、その重要性がわかってからもう一度勉強したいものだと思っていた。既に古い本かも知れないけれども、考え方をきちんと書いているので、こちらで勉強してみようかと思っています。
『推計学の話』という本もあり、その第1章は『科学朝日』に掲載した文章だという。昭和24年(1949年)発行の本で、第1章だけ読んでみると大変わかりやすい。推計学成立の歴史も書かれていて興味深い。