関良基氏の本『中国の森林再生』の書評(続)

この建国時の負の遺産である山間部の粗悪耕地をつぶして植林しようというのが、1998年の長江・松花江大洪水の惨禍を機に始まった「退耕還林」プロジェクトである。このプロジェクトは、数字上先に述べたような大成果をあげているが、内部に立ち入って観察すると、必ずしも成功とはいえない部分を多く含んでいる。
 本書は、この退耕還林の国家プロジェクトのフィールド・ワークによる調査・分析によって中国の森林再生へ方途を探り、提案することを目指して書かれたものである。
全体は短い序章の後、次の八章で構成されている。( )内は執筆担当
Ⅰ 世界の森林再生活動における中国の位置づけ(関良基)
Ⅱ 退耕還林をめぐる国内論争の分析(向虎)
Ⅲ 西部大開発における貧困緩和戦略と退耕還林(吉川成美)
Ⅳ 黄河流域の退耕還林(向・関)
Ⅴ 長江流域の退耕還林(向・関)
Ⅵ 政府と農民の対立(向こ・関)
Ⅶ 古勝村の社会的共通資本と内発的発展(向・関・吉川)
Ⅷ 持続可能な森林再生のために(関良基)

Ⅰ~Ⅲの三章は、「退耕還林」概説とでもいうべき部分である。この部分は退耕還林に至までの歴史的経過や問題点、問題点をめぐる論争点などが要領よくまとめられている。
 しかし、なんといっても著者の本領が発揮されるのはⅣからⅦに到るフィールド・ワークによる調査分析の部分である。聞き取り調査の報告は臨場感十分である。なかでも著者らが法的に禁止されている間作(植えた木の間の土地で土地で作物をつくること)が、植えた苗の成長にもよい合理的な方法だと考えていること、つまり政府の政策に反対していることを知った農夫が、自分の退耕地の木がなぜ段々畑になった耕地のへりにばかり植えてあるのかの理由を教えてくれる条りなど「大きな声じゃ言えねえが、こうしておきゃ、また作物をつくらなきゃならなくなったとき、楽で良いベ」と言ってニヤリとしてみせる情景が眼に浮かんでくる。