正しい負け方

牧衷さんの講演の一部を紹介します。

 だいたい原則的には負ける戦はしてはならない。それは運動を起こすときの最初の情勢判断ですね。その時これは勝ち目があるかないかを慎重に考えます。それにはいろんな要素を考えますけれども,根本的に整理して言えばその時の社会の客観的な情勢,ぼくの言うところの風の向き,自分の方が持っている力あるいはエネルギー,それはあるときには自分と志を同じくする人の人数であったり,そのエネルギーがどのくらいあるかという問題であったり,そういうものを総合して考えたときにこれは勝てると考えたときに,運動が始まります。
 ですからあまり希望的観測を持ちません。そこでは。運動を始めればみんなついてくるだろうというようなバカな考えは初めからしない。運動を始めれば孤立することはあっても仲間が増えることはまずないだろうというくらいに考える。孤立しても闘える。そして勝てるというぐらいの見通しがつくような運動の形態を選び,それで始めます。
 だけど一人一人に闘う場所はあるし,それで実績を上げて実績を認めさせることが出来れば,それはさらにその次へ行く陣地になります。その陣地を固めるんだ。こっちからこういう風が吹いてくるというときにその風に立ち向かって吹き倒されるという愚をやってはいけない。その間せいぜいそっちは柳に風と吹き流されながら,こっちで自分の陣地築く。これが正しい闘い方ですね。
 総体的に言った今の教育現場の環境から見た大まかな戦略的見取り図です。ですからこれは勝つか負けるかというときにこういう大きな戦略的地図をもって眺めればいろんなことが見えてくる。ですから,一方で日本の教育の現状がどうにもならないものであるということはみんなわかっていても,その現状をどう改革するかということについて,いろいろな意見があります。その中にはとんでもない意見もありますが,いい意見もあります。そのとんでもない意見でなくてその意見で現状がよくなると考えられるならばそういう方向に向かってする努力というのは,うまく成功する確率が非常に高い。それを自分の陣地に出来る可能性が非常に高い。だからそれをやろう。仮説実験授業をやる人が増えます。それについて文句言えなくなっちゃうんだから。

負け戦の撤退の秘訣 ── とにかく逃げる

 でもいろんな運動で勝てると思い,勝算があって始めた運動でもうまく行かないことがあります。その時にどう収拾するか。「これは勝てない戦だ。このままやっていると壊滅的に負けてしまう」という判断をどうつけるかというのが運動始めちゃったら一番大事な判断になります。この判断がとても難しいんです。
 まず,やることが自分にとって重荷になって来るというのが負け戦の第一徴候です。そして,「でもなあ,言っちゃったからには」と自分のメンツを考えるようになったらやめなさい。これは負け戦なんです。メンツもかっこもあるものか。尻に帆かけて逃げ出すに限る。その時の逃げ出し方なんですが,その戦には戦の相手があるに決まっていますね。たとえば,こっちは民主的に授業をやっているつもりなんだけれども,厳格派の先生がいて,「あんたのクラスはあんたみたいなやり方しているからこんなことになる」とギャーギャーギャーギャー責められる。「そんなことはない。今に見ていろ。ぼくだって」って言ってやるけどうまく行かないというようなときです。「もうこれ以上やってもしんどいなー,でも言ったからにはなー」そんなときにはメンツだとか,仮説実験授業研究会の面目とか,そんなバカバカしいことを考えちゃいけないんです。そんなものはメンツもヘッタクレもあるものか。そんなときにはさっさと白旗を掲げて,逃げ出すに限るんです。