戦略を間違えると必ず負ける

牧衷さんの講演の一部を紹介します。

米軍基地問題アメリカの軍事問題である
 ──外交問題としてとらえると失敗する

沖縄の話で戦略間違えたからと言ったのは、米軍基地を考えるときに一番基礎に考えなければならなのは、まずこれはアメリカの軍事政策の一環だということなんです。外交政策じゃないんです。外交問題でなく軍事問題だというその仕分けがついていないといけない。日本では安全保障問題と言っているから軍事の問題だということが忘れられがちなんです。いいことなんだけど、日本では憲法のおかげでよその国のように軍隊が威張ることができません。それは日本の特殊性です。その中で考えることってのはやっぱり歪むんです。
 基地問題というのは基本的にアメリカでどこが担当してやっているかといえばこれは国防省です。国防省と交渉するということになったらアメリカの軍事政策上の必要性が最初に来ます。

アメリカ軍の最大問題は台湾海峡問題

 そうすると、アメリカは今どこに対抗して何をしようとしているか。中国、それから後はインドになるかもしれない。東アジアです。まずは北東アジアです。もっとはっきり言えば台湾海峡の問題なんです。台湾海峡ににらみをきかせるのに日本の中で最も地の利を得ているのはどこか。沖縄です。だから沖縄から基地をなくすという話は日米同盟がある限りだめです。日米同盟廃棄して日本が立ちゆくかと。これは立ちゆかないですね。日本は立ちゆくつもりでいるかも知れないけれど。
 世界というのは一歩外に出ると人食いライオンや人食いオオカミがウロウロしているところなんです。すぐ隣にも人食いオオカミがいるんです。日本海渡ったら人食いオオカミがいるんです。そのことはちゃんと覚えておかなければならない。だからどこの国が好きとか嫌いとかいう話ではないんです。一歩外に出たら国際社会というのは人食いオオカミだらけのところです。善意なんかで動かないです。そういう世の中だということを僕が分析するときの筋道でいうとそういうことがあります。

中国はネイション形成途上──民族主義・排外主義

 それからもうひとつ、中国はネイション形成の途中ですから明治からのかつての日本の後をたどる可能性が非常に高い。ライシャワーなんかが言い出したことですけど、開発独裁体制ということで見てみますと、日本もドイツもソ連も中国もインドネシアもみな同じになります。共通するものがあるんです。それは何かと言いますと、そのもとをどこでこしらえるかというと民族主義でこしらえるんです。民族主義というのは排外主義です。 排外主義でこしらえるんです。学校でクラスの団結を固くしたかったらクラス対抗試合をやるに限る。クラスの団結が固くなります。それと同じなんです。これから排外主義が強くなっていくだろう国が隣にあるということを忘れちゃいけない。自由化が進めば・・・なんて思っている人もいるようだけど、だめですよ。日本も自由主義でやったけど排外主義だったんだからね。明治の日本は。日本の帝国主義は市場拡大じゃないからね。帝国主義が排外主義に結びつくというのはどこの国でも同じなんですね。イギリスもフランスも排外主義で大きくなったんですよ。そういう排外主義的な傾向が非常に強くなる可能性のある国がすぐ近くにある、しかもすごい大国がある。今は強くないけれど潜在的には世界一の大国になる可能性のある国がすぐ隣にあるということは覚えておかなければならない。すると、そのカウンターパワーは日本一国ではとてもだめですね。まわりを引っ張り込まなければだめです。その脅威を感じるのはアメリカもロシアも感じるでしょうから。そういうことは考えに入れてやらなければいけない。
 ぼくは中国に対して排外主義を言うわけではないですよ。中国に対しては最も同盟的・友好的でなければならないと思っていますよ。でもこれは男女の仲と同じで一方的に思いを募らせたってだめなんでねです。相手があって、相手の方もそうおもってもらわなければならないんだけど、今のところ相手のところはそう思わない体質なのね。あと20年30年経てば話は変わってくるかも知れないけど、少なくとも今のところはだめです。

米軍を完全になくすのは危険

 そうすると日本から米軍基地を完全になくしてしまう。東アジアにおける米軍のプレゼンスを日本のイニシアティブでそこから完全に引かせてしまうというのは日本にとって非常に危険な道です。アメリカが勝手に出て行くのはしょうがないですが。
 そうすると沖縄から米軍基地をどけるということは非常に難しい。そのことがまず日本人の頭にどれだけ入っているかということですね。現地の人は米軍基地が来たらそれなりのメリットがあるから。議員たちはわかっていないんだよ。防衛省の連中はさすがに軍人だからそれはわかるんでよ。だから、それは無理だ無理だと言っている。それは無理なんだよ。無理だけれども名護の沖合を埋め立てなければいけないという話はないわけだ。だからシュワブにしろという話が出てくるのは至極当然の話なんです。
 そのことに対してはアメリカは必ずしも反対ではない。沖縄から米軍が離れなくて済む。県外移設の方が反対するでしょう。沖縄を離したくないんです。だいたい、戦略的に言うとアメリカが絶対離さないところが2つある。沖縄と厚木です。厚木は極東米軍の頂点・頭脳ですからあそこを動かすわけにはいかない。だから厚木周辺では授業のときにバンバン戦闘機が飛んでくるから授業どころじゃなくなっちゃうんだよね。でもそれは変えようがない。

 変えようがないという前提に立った上で何がやれるかと言えばやれることはあるんですよ。
以下次回掲載します。