サロンの作り出す文化

牧衷さんの講演の一部を紹介します。近々、牧さんの本を出版する予定です。
以下講演
ゲゼルシャフト的結合というのは,生産組織だけにあらわれるものではありません。ゲゼルシャフト文化というものも当然産み出します。
 このゲゼルシャフト誕生のときのゲゼルシャフト文化の代表的なものに「サロンの文化」があります。サロンという社交の場は,宮廷内にも貴族間にもありましたが,宮廷や貴族のサロンは身分社会的儀礼の中での社交になります。ところが,ゲゼルシャフトのサロンの方は,構成メンバーが「独立自営職業人」たちですから,ゲゼルシャフト本来の必要・興味・関心によって,職業横断的・身分横断的な集まりになります。
 このゲゼルシャフトのサロンというのがどんなものか,いくつか有名な例をあげてみましょう。
 大革命期のサロンでまず挙げなきゃならないのは,百科全書派の学者ドルパックのサロンでしょう。ここにはドルパックはもちろん,ディドロ,ルソー,ラグランジュ,なんていう錚々たる連中が集まって森羅万象さまざまな問題について自由な議論をかわす。その結果,このサロンから啓蒙主義思想の聖書みたいなあの『百科全書』が生まれます。
 もう一つ同時期のものに,ラヴォアジェのサロンがあります。こっちは実験科学同好会みたいなサロンで,百科全書派のラグランジュがいたり,酸素の発見者のプリーストリもイギリスからパリにやってきたときに招かれたりしています。このサロンが生み出したものはなにか。いうまでもなくラヴォアジェの化学であり,近代化学の開始をつげるあの『化学原論』です。