仮説実験授業は科学革命

トーマス・クーンの科学革命の理論があります。クーンは科学革命と通常科学に分けて科学史を説明しようとしました。この説明の線で考えると仮説実験授業は一番最近起こった科学革命であると言えるでしょう。仮説実験授業が世間になかなか受け入れられないのは地動説がなかなか世間に受け入れられなかったのと同様で、当然のことなのかも知れません。科学革命に相当する部分についての教科書の説明は生徒にとってわかるものになっていません。地球が動いていることは当然すぎるほど当然なのでわざわざ教えるまでもないと思っているのでしょう。そのため、科学革命に相当するところを教える授業の多くは、地球が静止していると思っている生徒に地球の軌道計算を教えていることと同様なことになっているのです。電流による磁気の発見についての教科書の説明はわかっている者にとってはわかるが、わかっていない生徒には理解不可能な書き方です。仮説実験授業の授業書はこうした科学革命について、きちんと理解できる教材を開発してきたと考えることができます。
 そこで、科学革命に相当するところを教えるには仮説実験授業をするのが適切な方法ということになります。教科書に沿った説明では、生徒は理解不可能です。理科教育の研究会で報告される多くの授業実践は科学革命以外の部分、すなわち通常科学を教えるための工夫です。通常科学は教科書を工夫して教えることで教えることができます。ほとんどの先生たちが通常科学の教育に関心があるのに、科学革命を教えることに関心を持っていません。そこで理科教育の研究会の発表で、仮説実験授業の発表をすると、浮いてしまうような感じになってしまいます。それも当然のことのように思われます。
 私の40年間の授業を振り返ってみると仮説実験授業と教科書授業を組み合わせて来ましたが、これは科学革命と通常科学に対応していたのだということに最近気づきました。
 この観点から仮説実験授業の普及の仕事に取り組んでみようと思います。これも仮説実験的認識論の一つの応用問題だと思っています。