仮説実験的認識論

板倉さんの話
 スターリン批判が出たとき毛沢東は「次は自分が批判される」と考えたのではないか。そこで、「批判される前に」ということで、大躍進政策を打ち出したのかも知れない。毛沢東は「中国は15年でイギリスを超える。」と宣言した。しかし、大躍進政策が実施されると1000万人以上の餓死者を出して大失敗した。このとき、毛沢東には仮説実験の論理がなかった。明らかに失敗しているのに、失敗となかなか認めなかった。しかし、毛沢東の『実践論』には「真理であるかどうかを決めるのは実践である。」と書かれている。毛沢東は仮説実験的認識論を持っていてそれを本に書いていた。それにも関わらず、大躍進政策を進めるときにはその自分の認識論を適用して、実験結果(実践結果)を見て政策を修正訂正するということをしなかった。
私の考え
  「科学的認識は仮説実験的にのみ成立する。」という認識論に立つ人が、その考えを科学教育に適用すれば仮説実験授業が生まれると考えることもできる。自分の授業で仮説実験授業をするだけでなく、他の先生たちにもこのやり方を普及したいと考えたときにどう考えるだろうか。「仮説実験授業の普及のしかたも仮説実験的に」と考えるだろうか。板倉さんはそう考えた。だから、指導要領に仮説実験授業を入れさせようとか、マスコミを通じて流行させようとはしなかった。仮説実験授業研究会を組織して、意欲ある人たちの力で研究を進めようとしたのである。
 多くの教育運動と同様に、仮説実験授業を権力的に普及させようとしたり、流行させることで普及させようとしたら仮説実験授業はどうなっただろうか。多くの教育理論と同様に大流行しその後衰退するという運命をたどったに違いない。 板倉さんが仮説実験授業を提唱した最初期から「仮説実験授業の普及・研究の仕方も仮説実験的にあるべきだと考えております。」としたのは、驚くべき卓見であったと今にして思うのである。