今までの研究は全部やめる

勝木渥先生からの情報を紹介します。
以下引用
 『フラーレンナノチューブの科学』 の著者の一人である篠原久典先生が、このたび、第64回 「中日文化賞」(中日新聞社) を受賞されました。これまで続けてこられた 「ナノカーボン・ハイブリッド物質の創製」 による受賞であり、関連する研究成果が 『フラーレンナノチューブの科学』 にまとめられています。
 (2011年5月3日付 「中日新聞」 より)
 “挑戦の成果が産業支える”
  「ドイツで参加した国際会議が人生を変えた。忘れもしない1990年9月。最前列に陣取っていた。壇上で、サッカーボール状の炭素粒子フラーレン」 の多量合成に成功した研究の発表が始 まった。「1世紀に一度の発見。すごいことになる」。背筋が震えた。
  予定を取りやめすぐに帰国。研究室の学生たちを集めて宣言した。「今までの研究は全部やめる」。微細炭素 (ナノカーボン) の世界に飛び込んだ。「でも、本当は少しだけ不 安だった。若かったからできた」 と笑う。
  以来、休みなく研究を続け、フラーレンの内部に金属分子を入れることに成功した。「金属内包フラーレン」 は電気伝導性が良く、磁気共鳴画像装置 (MRI) の造影剤やがんの 治療への応用が期待されている。
  昨年、ノーベル物理学賞を受賞したのは板状に結びついた炭素粒子グラフェン」の研究。フラーレンに似た物質だ。黒鉛の板に粘着テープを張り付けてはがすだけで取り出せる。「炭素研究はお金をかけない簡単な実験からも始まる。エリートでなくても挑戦できる世界。でも、出てきた成果は産業を支えている」。
  文化賞受賞を 「国内外の共同研究者と研究室の学生諸君のおかげ」 と喜ぶ。時には高校にも出かけ、科学の魅力を伝える。……」
引用終わり
 一番印象に残ったのは、「今までの研究はすべてやめる。」として、新しい研究課題に取り組んだところです。大科学者は、問題を発見したときの対応が早い。「今やっていることが一段落したら・・・」などと考えているといい研究はできないということでしょう。板倉聖宣さんも科学史家として活躍していたところに上廻さんが来て、教育研究に取り組むことになり、仮説実験授業の誕生に至るのですが、このとき板倉さんは「科学史の研究をすべてやめる」と決意したと言います。いい問題を発見したとき、その問題がいい問題であることをはっきり認識して、その研究に没頭できるようなセンスを持つようにしたいです。