締切前の心境

牧衷さんが長野県屋代高校でやった進路講話の一部を紹介します。
全体は『牧衷さんの哲学を学ぶ会 民族問題と学校教育の再編成』上田仮説出版に収録されています。

締め切り前には他のことがしたくなるもの

 やっぱり,受験の勉強なんかされてますと,何となく気が落ち着かないというようなことがあって,何かお尻を叩かれたり,せっつかれたりされているような気になったりします。これは,先生がお尻をつっつかなくても,親がお尻をつっつかなくても独りでにそうなるわけですね。また,人間というのは不思議なもんで,そういうふうになると何かいろいろなことを考えるんですね。そういうふうになったんだから,ただ問題集だけをやってるんだというふうには人間の心は動きません。そういうときこそいろいろなことを考える。いろんなことを考えると時間がつぶれる。時間がつぶれるからまた気が焦ると。気が焦るとまた他のことをやりたくなる。これはもう本当にどうしようもないですね。
 私は今のところは原稿用紙の升目を埋めて生計を立てております。これには締め切りというものがあります。でね,締め切りが迫ってきますと,他のことをしたくなるんです。絶対に。これは不思議なんですね。これは僕がナマケモノのせいか,締め切りの原稿のことをやるのがいやだから他のことに逃避するのか。僕はナマケモノのせいだろうと思っておりましたら,同じ仲間の,原稿用紙の升目を埋めている連中はほとんどすべてそうなんですね。やっぱりそんなもんなんです。
 ですから皆さん方も今の時期なんかには大いにいろんなことを考えられたらいい。早い話,勉強に疲れれば,こんな勉強何のためにやるんだろうと思ったり,それから,大学を出るなんていうことは一体どんな意味があるのかとか,いろんなことを考え,人生何のために生きているのか分からなくなっちゃうことだってなきにしもあらずだろうと思います。でも,そういう時期にそういうことを考えるということは非常にいいことでありまして,やっぱり,日常の生活に紛れておりますと,なかなかそういうことは考えない。そういうことを考えられるのは,今の皆さん方の年頃から,大学で遊び呆ける4年間ぐらいだろうと思います。で,その時期がやっぱり非常に貴重な時期になります。ですから,その時期を迎えられていらっしゃる皆さん,日頃どんなことを考えていらっしゃるかよく分からないんですけれども,まあ,今,世の中の空気はあまりよくありませんから,先行きどうなるかいろんな不安なんかもおありでしょう。それから,目の前の入学試験というようなことを考えても,何か不安が絶えず出てくるというようなことはあると思います。