ことばづかいと人間関係の距離感

牧衷さんの講演「企業管理職から見た学校の現状とこれから」から一部を紹介します。全体は牧衷連続講座記録集8『人間関係と仮説実験授業』に収録されています。

以下講演
日本語の名人に学ぶ

 池波正太郎とか池田弥三郎だとか,佐多稲子だとか,安岡章太郎だとかいう日本語の名人たちの対談を読むとそのやりとりが実に見事です。「アー,日本語ってこういうものなんだ。」と思います。そのやりとりと同じような言葉の使い方が出来るようになったらもう第一級品ですが,そこまでなろうたってなかなかなれるものではないです。私なんかはそのやりとりを読んで「いいなー」と思うだけでございます。そんな言葉づかいの教育は意外におろそかになっている。
 昔もそういうことは教えなかったんです。昔は上下の秩序を教えました。上下の秩序に従って言葉づかいをしているうちに距離感というものがわかるようになったんです。
 今の人はそういう言葉を使っていないから相手との距離感がわからなくなっている。「乱暴な口をきくのは自分が相手に対する親しさの表現だ」なんて思い違いをしている人がいる。初対面の相手に友だち言葉で話しかけることで「私はあなたとお近づきになりたいと思っている」ということを表現しているつもりのようなんです。とんでもない思い違いですね。たいがい拒否されます。そんな見ず知らずの人間がヅカヅカ土足で踏み込んできたらけっ飛ばすのが当たり前です。「横っ面張り飛ばされないだけ幸運だと思え」というようなものです。昔はそういうときには本当に横っ面張り飛ばされました。それで,「あっ,そうか。」で覚えていったんです。学校の先生と話していて「今そんなことはどうなっているのかな」と思うんです。