中国の教育事情

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訪中した記録を書きました。その原稿を掲載します。写真は玄関に掲示されている1番の生徒。日本なら個人情報を・・というところだが、気にしているようすはありませんでした。

中国の教育事情

 中国の教育事情を視察する機会を与えていただき、どのような視点で視察したらいいかを考えた。キーワードは国民国家成立と国民教育であろう。この観点で中国の教育事情を視察することにした。
 黒龍江省教育庁への表敬訪問で教育庁の教育政策の重点課題は何かを質問した。回答は「9年間の義務教育が最重要課題である。困難点は学校間のバランスをとるのが難しい。重点は田舎に向かっている。お金を使っていい先生を田舎に送り込んでいる。学校間格差をなくすようがんばりたい」とのことであった。この話から現実には義務教育にも大きな格差があり、それが国民教育として大きな課題になっていると推察される。実際に哈爾浜大学の日本語科学生で通訳をしてくれた張さんは、「自分は農村部の出身だが小学生の時は2つか3つのクラスを一つにして授業をしていた」と話してくれた。機場路小学校の1年生の国語の授業で子どもに発音させて、それを直すと言うことをやっていた。中国は同じ中国語と言っても地域によって発音が大きく異なっているという。明治政府のもとで「標準語」という言葉を全国に普及しようとしたのと同じ課題を今果たしつつあるということであろう。国民の統合には国民教育が不可欠であり国民教育こそが今の中国の最重点課題なのであろう。
 中国の高校進学率は40数%ということである。高校生はエリート集団なのである。生徒の学習意欲は高く、授業の進み方は速い。高校の玄関には成績優秀者の大きな顔写真と各科目の点数と、その全国での席次が大きく掲示されていた。日本なら個人情報の保護ができていないということになるところであるが、かつては日本でも大学入試合格者や高校入試合格者が新聞に掲載されていたのである。
 中国の生徒たちの意欲的な学習態度を見て、改めて日本の高校生の意欲に乏しい態度に日本の行く先を憂える気持ちになった。しかし、これは日本だけの問題ではない。欧米先進諸国はみな中高生の学習意欲の低下に頭を悩ましていて、解決策が見い出せないでいる。中国においても高校進学率が高くなるにつれて、今の日本や欧米諸国が抱えている問題に悩まされることになることは確実だと思われる。
 2001年から粛紅中学校の目標は「楽しく授業」になったという。そのために「教師が生徒の立場で考える」「簡単に説明できる工夫をする」「厳しく授業をしない」ということを実践しているそうである。日本では1963年に「これまでのやり方では今後生徒の学習意欲を喚起することができなくなる」という見通しのもとに仮説実験授業が提唱されたのであるが、今や中国でも楽しい授業への需要が生まれてきているようである。そんなことを考えると黒龍江省の実験小学校で仮説実験授業を紹介できたことは、これからの中国の教育のあり方に問題提起することになったのかもしれないと考えている。