現代とはどういう時代か

牧衷さんの講演「現代とはどういう時代か」の一部を紹介します。詳細は『牧衷連続講座記録集』第5集に収録

以下講演抄録
ネイションの枠組みは小さすぎる

 「現代とはどういう時代か」というと「ネイションの成立以後,世界はネイションを軸にしてまわってきたんだけれども,今やネイションという枠組みが狭くなりすぎた。そういう時代が世界史的現代です。これからネイションという国境がだんだんだんだんメルトダウンしていく。」その一つの始まりがEUだし,ある種のグローバリゼイションだったりする。国家の主権というのはけんかでも何でも出来るのが国家の主権だと言うけれども,今では自ら国家の主権を一部放棄していますね。たとえば,1928年に成立したパリ不戦条約,ここでは「国際紛争解決のため,および国策遂行の手段としての戦争を放棄すること」を条約で決めて,条約参加国は自発的に自国の主権の一部を制限した。日本もこの条約に加わっています。現在日本は交戦権を放棄していますね。これ,日本が植民地になったからそうなったんではないですよ。主権に従って主権の一部を自ら制限してるんです。そこがわからないと,声高な「押しつけ憲法」論になっちゃうんです。そこがわかんない人が大部分なんです。

日本国民が選び取った日本国憲法

 今の憲法,押しつけといえば押しつけだけど,やっぱり日本が選び取ったんですよ。みんな受け入れたんだもの。押しつけられたと思わないものは押しつけられたって押しつけじゃないよ。あの時に,自衛権を放棄しているからって言ってあの憲法草案に反対したのは共産党だけです。その共産党が今どうなっているかを考えると隔世の感があっておもしろいですよ。吉田茂は彼自身は決して軍備廃絶論者じゃないんですよ。ないけど,積極的にあれをとったんですよ。なぜとったか。軍備の負担から免れなければ日本の復興はないからです。それと引き替えにそれを選択して日本は成功したんだ。押しつけられたってなんだって,成功したのは日本なんだからさ,押しつけられて結構でございました。ありがとうさんでしたって。結局そこんところがわかんないと全然わかんないんですね。
 今の憲法は完全無欠なものでは全然ないですから,改善しなければならないところがたくさんありますよ。国会議員に対するリコール権がないなんてもってのほかですよ。国民主権が泣いちゃうよね。リコール権があれば,議員はもっとしゃんとしますよ。居眠りしてるだとか,汚職だとか,うわさが立っただけでリコールされるから。
 リコール権がないから国会議員はそっくり返るんですよ。選挙の時だけ土下座してさ,当選したらそっくり返るわけだ。それで国民の代表だなんて,何もあんな連中に全権委任なんかしたくないですよ。
 とにかく今とても大事なことは,「日本国は大日本帝国ではありません。それとはキッパリ縁を切った憲法を持つ国です」ということを世界に向かって再度宣言することです。九条の問題ってはここにからんでくるから議論のタネになるんです。九条の変更というのは,このキッパリさをアイマイにするから困るんですよ。こういうことがわかってるから,自民党の中にも「解釈改憲の範囲に止めるべきだ」という人たちがたくさんいるということになります。