『楽しい物理教育への道1』のあとがき

あとがき
    文化革命としての仮説実験的認識論
 正しい認識に到達するにはどうしたらいいだろうか。多くの人は「頭がよければ正しい認識に到達できる。」と考えている。この考えは正しいだろうか。
 板倉聖宣さんは科学史の研究によって「アリストテレスが間違えたのは頭が悪かったからではない」ということを明らかにした。正しい認識に到達できるかどうかは頭の善し悪しで決まるのではないのである。
 われわれは仮説実験的に考えることによってのみ正しい認識に到達することができる。仮説実験授業をしていると、この「科学的認識は仮説実験的にのみ成立する」という主張(仮説実験的認識論)が正しいことは自明のことのように思えてくる。
 しかし、このような考えを受け入れているのは一部の人たちだけである。多くの人は「頭がよければ正しい認識に到達する」と思っている。仮説実験的認識論は社会の中では圧倒的な少数派なのである。仮説実験的認識論を普及させていく仕事は、今後数百年にわたる努力を必要とする大きな仕事なのである。
 しかし、仮説実験授業を受けている生徒、仮説実験授業をしている教員は日々、仮説実験的認識論の正しさを実感している。仮説実験授業をすることにより、われわれはいつの間にか認識論の研究における先駆者となってしまったのである。
 定年退職から5年。今も再任用教諭として楽しく授業を続けている。なぜ自分は授業を続けているのだろうか。それは仮説実験授業をすることが一つの文化革命だと感じているからである。仮説実験的認識論の普及が進めば次第に多くの問題も解決の方向に向かっていくように思われる。
 仮説実験授業を続けること、その意義を普及させるために努力することは、大きな仕事なのである。心して授業をしていきたいと思う。